大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(刑わ)230号 判決

主文

1  被告人佐藤を懲役八月に、同相良、同川中、同原、同林、同山崎、同田辺、同三枝をいずれも懲役六月に、同小泉、同椋本をいずれも懲役五月に処する。

2  ただし、被告人らに対し、この裁判確定の日からいずれも二年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(認定事実)

昭和四四年一月一〇日、二百数十名の学生らが、東京都港区北青山二丁目にある国立秩父宮ラグビー場で開催された東京大学主催の七学部集会を実力で妨害するため、警備の警察官および集会参加者に対し共同して殴打、投石などの暴行を加える目的をもつて、それぞれ樫棒、鉄パイプ、角材、石塊などを携えて、同日午後一時二〇分ごろ同都渋谷区千駄ケ谷一丁目国鉄千駄ケ谷駅前に集つたうえ、隊列を組みながら前記集会場に向つて行進し、同一時四〇分ごろ同都新宿区霞ケ岳一三番地先神宮第二球場横路上にいたつた際、

1  被告人相良は、樫棒を所持して右学生らの集団に加わり、

2  被告人川中は、樫棒および石塊を所持して右学生らの集団に加わり、

3  被告人原は、樫棒を所持して右学生らの集団に加わり、

4  被告人林は、角材および樫棒を所持して右学生らの集団に加わり、

5  被告人山崎は、細長い棒様の物を所持して右学生らの集団に加わり、

6  被告人田辺は、樫棒を所持して右学生らの集団に加わり、

7  被告人佐藤は、樫棒を所持して右学生らの集団に加わり、

8  被告人三枝は、樫棒を所持して右学生らの集団に加わり、

もつて、それぞれ他人の身体に対し共同して害を加える目的で兇器を準備して集合し、

9  被告人小泉および被告人椋本は、いずれも右のような兇器の準備があることを知つてその集団に加わつたものである。

(証拠)

全被告人について

1  司法警察員作成の各写真撮影報告書謄本

2  司法警察員作成の各実況見分調書謄本(ただし立会人の指示説明部分は供述証拠としては証拠としない)

被告人三枝を除く被告人らについて

3  証人吉川金之介、同戸田成史、同塩原宗人および同田中義雄の当公判廷(被告人三枝を除く被告人らについての昭和四四年七月一六日の公判期日)での各供述

4  証人小野重治、同伊東国雄、同山口泰司、同山田由明、同徳住隆之、同米沢義久、同赤瀬滋、同北原静雄および同橋本政紗の当公判廷(被告人三枝を除く被告人らについての同月二三日の公判期日)での各供述

5  写真一五枚(ただしの各証人との併列写真一〇枚、徳住証人が書き入れた写真四枚および山田証人が書き入れた写真一枚)

6  押収してある樫棒六本(昭和四四年押一〇七七号の2367910)および石塊七個(同押号の8)

被告人川中について

7  同被告人の検察官に対する各供述調書

被告人三枝について

8  証人吉川金之介、同戸田成史、同塩原宗人および同田中義雄の当公判廷(被告人三技についての同年一一月五日の公判期日)での各供述

9  証人橋口敬太の当公判廷(8の公判期日)での供述

10  併列写真(9の証人とのもの)一枚

11  押収してある樫棒一本(同年押一六三一号の1)

(法令の適用)

被告人らの行為は、それぞれ刑法二〇八条の二・一項にあたる(いずれも懲役刑を選択)。

同法二五条一項(主文2)。

刑訴一八一条一項但書(全被告人について訴訟費用は負担させない)。

被告人らの行為は、それがどのような状況認識、意図、心情ないし信念にもとづくものであつたにしても(被告人らは、当裁判所の再三の呼び掛けにもかかわらず、法廷で率直にこれを吐露する機会をついにみずから放棄してしまつたのであるが)、違法なものであることが明らかであり、被告人らの責任を決して軽く見ることはできない。

しかしながら、なんといつても幸いなことに、機動隊により早期の規制がなされ、被告人らはいずれもまつたく無抵抗で逮捕されていて、その行動は実質的にはいわば予備の段階で終つてしまい、すこしも重大な結果をひき起こすことがなかつた。

審判拒否のあやまつた態度は、もとよりきびしく責めなければならないが、これも今日ではかならずしも個々の被告人の真意にもとづくものとは認められず被告人たちの心の奥底には、それぞれ、本件のような行動のもちうる意味についての反省が動き、将来の生き方についての決意が生れつつあるものと察せられる。

なお、被告人佐藤の未決勾留は三ケ月に近く、その他の被告人らの未決勾留もおよそ一月ないし二月にわたつている。

そこで、その他諸般の情状をも考慮し、本件については、特に、被告人らに対しいずれも刑の執行を猶予することが相当であると判断した。

出席検察官 松藤滋

(戸田弘 米沢敏雄 堀籠幸男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例